HACCPの義務化

⽇本の⾷品衛⽣関連法等において、⾷品を取り扱う施設等においてのHACCP導⼊を義務づける規定は設けられていませんでした。
⾃社の⾷品衛⽣管理にHACCPの⼿法を適⽤することは各⾷品関連企業の⾃主的な決定に委ねられ、HACCPの導⼊や⾷品安全マネジメントの認証取得などにより、⾷品の安全性の確保に取り組まれています。
HACCP制度化の動きには、異物混⼊による回収や⽇本社会の⾼齢化に伴う⾷中毒事故増加への懸念等、消費者へ供給される⾷品の安全性の確保が背景にあります。

⾷品規格委員会(Codex Alimentarius)は、HACCPによる衛⽣管理⼿法の適⽤のためのガイドラインを1993年に採択し、その後数回の改訂が⾏われました。海外においては先進国を中⼼に、国際的な⾷品衛⽣管理基準であるHACCPの法制化がすでに実施しています。
北⽶のアメリカやカナダでは、⾷品規格委員会がガイドラインを採択した1990年代に、対象となる⾷品を取り扱う事業者に対してHACCPによる衛⽣管理の導⼊を義務付け、早い段階から制度化を進めてきました。

HACCPによる衛⽣管理⼿法の適⽤のためのガイドラインが採択されてから20年以上が経過し、北⽶のみならず、EU、オーストラリア、アジアなどの国々と地域においてHACCPを制度化する動きが広まっています。

⽇本では農林⽔産物・⾷品の輸出額を増加する⽅針を掲げるなど、⾷品の輸出量増加が⾒込まれ、⾷品輸出相⼿国の要求に応じ、国際的な⾷品衛⽣管理基準の順守を要求される機会はさらに多くなると想定されます。
⽇本政府は、国内での⾷品の安全性確保や海外での制度化の状況をふまえ、今回のHACCPの制度化を実⾏し、⽇本の⾷品の衛⽣管理基準を国内外に⽰していくつもりです。

義務化はいつから?

HACCPによる衛⽣管理の制度化を含む、⾷品衛⽣法等の⼀部を改正する法律案が平成30年3⽉に提出されています。
東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年頃を⽬途に、法律の施⾏が開始されると予測され、改正から制度が実際に施⾏されるまでに、数年間の期間が設けられます。

義務化の対象

厚⽣労働省はHACCP導⼊の義務化の対象に、製造・加⼯、調理、販売等を⾏う全ての⾷品等事業者を検討しています。

2017年6⽉30⽇に公開された、⽇本農林⽔産省⾷料産業局⾷品製造課の調査では、⾷品製造業においてHACCPの導⼊をすでに実施している企業は28.6%、 導⼊途中が8.6%、導⼊を検討が23.8%、導⼊する予定はない27.6%、HACCPの考え⽅をよく知らないが11.4%となり、 HACCPを導⼊している企業の割合は3割未満です。

また、年間販売額規模が100億円を超える企業は83.5%がHACCPを導⼊済みであるのに対し、1億円未満の企業では導⼊済みの割合が2割未満です。 (平成28年10⽉1⽇現在)

参照:「⾷品製造業におけるHACCPの導⼊状況実態調査」(農林⽔産省)
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/sanki/haccp/attach/pdf/h_toukei-1.pdf

⼤規模な⾷品製造企業においては、80%以上がHACCPに導⼊している中、全体での導⼊率は30%を下回っており、企業の規模の間でHACCP導⼊の差があります。 この差の原因として、HACCPの実施に伴うコスト増への懸念や、HACCPを実⾏するためのトレーニングをする⼈材の不⾜などの問題が挙げられます。 そのため、今回のHACCPの制度化に伴い、中⼩を中⼼とする⾷品関連事業者もHACCP導⼊の制度化に対応できるよう、厚⽣労働省は基準Aと基準Bを設け、 制度を弾⼒的に運⽤していくような検討がされています。

基準Aにおいては、⼀般衛⽣管理に加え⾷品規格委員会のガイドラインに明⽰されているHACCPの衛⽣管理⼿法を取り⼊れた計画を策定する必要があります。 基準Bにおいては、⼀般衛⽣管理の実施を基本としてHACCPの衛⽣管理⼿法を可能な範囲で実施して重要管理点を設けることが求められます。

今回の法制化にあたり、厚⽣労働省は取り扱う⾷品の種類に応じたHACCP導⼊のための⼿引書を公表しています。

参照:「HACCP導⼊のための⼿引書」(厚⽣労働省)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000098735.html

基準Bの事業者は以下の通りで、基準Bに該当しない⾷品等事業者は、 ⾷品規格委員会のガイドラインに⽰されているHACCPの7原則を要件とする基準Aの対象となります。

  • ⼩規模事業者
  • 当該店舗での⼩売販売のみを⽬的とした製造・加⼯・調理施設
    例)菓⼦製造販売業、⾷⾁販売業、⿂介類販売業、⾖腐製造販売業、弁当調理販売業等
  • 提供する⾷品の種類が多く、変更頻度が頻繁な業種
    例)飲⾷店、給⾷施設、そうざい製造業、弁当製造業等
  • ⼀般衛⽣管理による管理で対応が可能な業種
  • 包装⾷品の販売業、⾷品の保管業、⾷品の運搬業等
出典:⾷品等事業者団体による衛⽣管理計画⼿引書策定のためのガイダンス(第2版)(厚⽣労働省)

⾷品衛⽣法の許可業種34業種の中に冷蔵倉庫はすでに含まれていますが、基準Bの対象事業者には「⾷品の保管業、⾷品の運搬業等」も含まれ、 ⾷品を取り扱う物流業界にもHACCP導⼊の制度化が適⽤される可能性が考えられます。